2025年がスタートしました。
いつも年初めは技術的ではなく、私的なことを書いてきました。
今年は趣向を変えてテクニカルトレーナーのコミュニティへの関わりについて話してみたいと思います。このテーマは
マイクロソフト認定トレーナーとして受講費用をいただいてお話をしている
立場の人間がコミュニティで無料で話するってどういうこと?
こう考える人もいると思うので、有償と無償は何をもって決まるのか?だったり、トレーナーとしてコミュニティに関わることによるメリットなどを私なりの視点で話してみます。
私がコミュニティに関わるきっかけ
本編に入る前に私のきっかけだけ簡単に話しておきます。
1997年にマイクロソフト認定トレーナーとしての仕事をスタートさせてから、職業としてお金をいただいて技術情報をお話してきました。当時はコミュニティと言えばチャットでのコミュニケーションが主流でかつハンドルネームを使うのが主流だったので、攻撃的なコミュニケーションも多く、私には馴染めない世界でした。だから敬遠するというか全力で逃げるべき存在でした。
一方で自分の中で色々なノウハウが溜まってきたにも関わらず、参加される方のスキルに合わせて話をするため、研修の時間内で伝えたいことの半分も伝えられないという現象が起きていました。おりしもブログだったり、オフラインコミュニティが出始めたり、コミュニティでの表現方法が多様化してきたこともあって、2006年ぐらいから研修の時間内で伝えられなかったTipsをアウトプットとして出していくようになったのがきっかけでした。
研修業界でアフターサービスってあまり聞かないので、自分のアウトプットがアフターサービスの一環として提供できれば.. ぐらいの軽い気持ちで考えていました。もちろんブログなどのオープンな場所に技術情報を書けば、お客さんではない方の目に触れてしまうけれど、それも自分なりの社会貢献だと思って取り組んできました。
(ブログのアクセスログに、あるSIerの名前を付けたプロキシサーバーからのアクセスがいつも大量にあるんだけど、その会社の人がうちの研修を一切受講してくれないんですよねw)
有償研修を登壇するトレーナーがコミュニティ活動してたらどう思うか?
まずは受講される方の立場から考えてみたいと思います。
と言いながら私は研修を提供する側の立場の人間なので、受講される方の立場でどう思うか?は正直なところ、よくわかりません。だけど受講費用をいただいてお話をする立場の人間がコミュニティで無料で話をしていたら、一定割合の人が「わざわざ受講に行かなくてもいいじゃん」って思うのでしょう。実際、私も研修とコミュニティで話す内容を変えていたりしません。だけどコミュニティで話す内容はどんなに長くても60分であり、しかもハンズオンで環境を操作できたりするわけではありません。研修は短くて1日、長くて5日というものが多く、それだけの時間を費やして得られるものはおのずと体系的なものになります。
例えばMicrosoft Intuneとは何か?がわからないという人に、Microsoft Intuneの機能のひとつである「Windows Autopilotでハマった話」などというテーマをコミュニティ勉強会で語られても頭の中がクエスチョンマークだらけになると思うのです。だからこそ体系的に学べる研修が必要だと私は考えています。(逆に言えばピンポイントにここだけを知りたい!という方であればコミュニティで知識が得られれば十分なのでしょう)
このような違いがあるので、研修とコミュニティ、どちらか一方があれば私たちの知識習得が完結する世界でもないのです。だからこそ私はコミュニティに関わって20年近くになりますが、いまでも有償の研修を受講してくださる方がいるんだと思うのです。
MS Learnをトレースする研修からの卒業
今度は立場を変えてトレーナーとしてのコミュニティに関わったら?という話をします。
トレーナー職の方でコミュニティに関わる人は私の肌感覚で言えば、だいぶ少ない気がします。実際、コミュニティになんか関わらなくたって自分の仕事は成立するし、Microsoft Learn見とけば私のしゃべりで研修講師ぐらいできるでしょ?正直こういうスタンスで、与えられた仕事をこなすだけって人がいるのは事実です。
現在のマイクロソフトオフィシャルのトレーニングで使われるテキストとLabガイドはどちらもネットで公開されているものを利用します。そのため、お金を出す価値はテクニカルトレーナーの話す内容にかかる比重は大きくなります。それなのにMicrosoft Learnに書かれている内容をトレースしたような説明が繰り返される研修でよいのでしょうか?
かと言って、実際どう使われているのか?どう使うべきなのか?などのベストプラクティスを話したいけど、テクニカルトレーナーという仕事をメインの生業にすれば案件に入ることはほとんどなくなるため、そのあたりの知識がどうしたって薄くなる。この問題を打破するためにコミュニティに関わるのはひとつの考え方としてアリなんじゃないかなと思います。
一例をあげましょう。
Microsoft 365に会社のデバイスを管理するMicrosoft Intuneというサービスがあります。Microsoft Intuneはデバイスに対してネット経由でポリシーを設定したり、アプリをインストールしたりできるサービスですが、テキストをトレースした説明をするなら「Microsoft Intuneではsetup.exeの形式のファイルはintunewin形式のファイルに変換すればネット経由でアプリがインストールできます」って説明になります。確かに説明としては正しいけれど、実際どう使ったらよいか?をもう少し深掘って欲しいと思うのです。例えば
・アプリのインストールって普通、セットアップウィザードが出てくるけど、Intuneを使えば自動的にインストールされるの?
・そうじゃなかったらウィザード画面ってユーザーのデバイス上に表示されるの?
・みんなの会社ではウィザード画面って表示されないように工夫してるの?
・インストールって普通、管理者権限必要だけど、私管理者じゃないけどインストールできるの?
など、挙げればキリがありません。
そうした実際に使おうと思ったら必ず出てくるであろう課題に対して、世間ではどうやって解決しているのか?自分の考えだったり、ソリューションだったりを提示していくことで価値のあるトレーニングを作れるようになるのですが、すべてのパターンを検証する時間もとれないし、もっと言えばMS Learnをトレースしているだけではそもそもこの問いを立てることすらできないかもしれない。
私にとって、そんな時にコミュニティで得た知識はとても役立ちました。
トレーナーのコミュニティ活用
いまやコミュニティはあちこちで山のように開催されています。どれがお勧めなのか?とか考えずに気になるテーマを取り上げている勉強会に参加してみたら良いと思います。時間を見つけて顔を出して色々な人の話を聞けば得られる知見もどんどん増えると思います。
コミュニティは参加するだけでも良いけど、できれば自分からアウトプットしたい。自分がコミュニティに登壇することで、他の人の話も聞く機会が自然と増え、得られる知識も増えていったと思います。また、自分自身が登壇者になることで他の登壇者の方々との強いつながりが得られるようになりますし、自分の思った疑問を他の人に気軽にぶつけたりするようなこともしやすくなったとも思います。
こうした知識はMicrosoft Learnに掲載されていない、生きた知識であり、それを研修に還元することで受講者の方々の満足度にもつなげられたのかな?って思っています。
トレーナーの知名度向上
コミュニティ活動を始めた当初は意識していたことではないけれど、コミュニティへの関わりは結果的に自分の名前を知ってもらう良い機会になりました。ブログを書く、コミュニティで登壇する、このことを何度も繰り返していくことでネットで自分の名前がたくさん登場することになります。それは自分が研修でお客さんを目の前にした時の信頼につながったと思っています。参加者の方が研修初日に、私が自己紹介する前に私のことを既に知っていて「国井さん」と声をけてくれたりすると本当に嬉しいですし、その日の研修も進めやすくなります。
私がまだトレーナーとして駆け出しの頃、よく私のスキルレベルを試すような質問をしてくる人がいました。その質問に的確にこたえていくことで、そのお客さんとの信頼関係を醸成していきましたが、これって本当に無駄な作業なんですよ。限られた時間の中でみんなの知りたい!に応えていく作業をしているのに私のスキルチェックをするようなやり取りはできるだけ省きたい。そんなところでもコミュニティの効用はあったと思います。
そこまでしなきゃいけない職業なのか?
勉強会って勤務時間外に開催されますから、あれこれ参加していたらブラックな職業じゃん!って考える人もいると思います。労働時間の縛りもありますから会社としてはそんなところに参加しろとは強要できません。だからすべてのトレーナー職の方に当てはめて話をしていません。ワークライフバランスを重視するとか、引退間際だからほどほどに働きたいとか、そんな方にとっては理解できない話だろうし、もちろんそういう考え方もあってよいと思います。
だけどコミュニティに積極的に関わっている人の原動力ってテクノロジーが好き、仕事で関わる内容が好き、誰かになにかを伝えたい、というようにブラック or ホワイトという線引きをそもそもしていないと思います。私もこの仕事が好きなので、もっと多くの人の課題解決のお手伝いを自分の仕事のスタイルを通じて (トレーニング/ワークショップという形で) 提供したい。なので明確な線引きをせずに、家族の理解を得ながらコミュニティに積極的に関わってきました。
パワハラと言われてしまうことを避けなければならない時代なので、昔のように上司がギャーギャー騒ぐこともなく、誰も自分に発破をかけて追い込むような人もいなくなり、勤務時間外にできることがあったとしても誰もアドバイスしてくれません。
だけどブラックとかホワイトとかではなく、仕事が好きで頑張りたいというのなら、もっとカラフルな仕事への向き合い方があっても良いと思うのです。ですのでコミュニティに関わって自分で追い込んで努力してみる (誰かがこんな働き方をセルフブラックって言っていましたが面白い表現ですね) ことで、長い期間この職業で成功を収める礎としたり、将来の仕事や立場に対する不安を消し去ったりするよう取り組んでみるって提案をしてみました。
努力とか、追い込むとか、昭和っぽい響きの言葉を聞くと「うわっムリ!」って思うかもしれないけど、一緒に語れるコミュニティの仲間がいれば楽しく様々なことを情報として取り入れられるようになると思います。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。